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水戸地方裁判所 昭和48年(行ウ)4号 判決

原告 青山清四郎

被告 茨城県知事

訴訟代理人 増田弘 外二名

参加人 浜野騰

主文

本件訴は、いずれもこれを却下する。

訴訟費用は参加により生じた分を含め原告の負担とする。

事  実 〈省略〉

理由

一  本件農地はもと訴外亡青山勝次郎の所有であつたが、被告が旧自創法第三条により買収処分をなし、ついで旧自創法第一六条第一項によつて補助参加人を売渡の相手方とする売渡処分をしたことは、当事者間に争いがなく、前期買収ならびに売渡の時期がいずれも昭和二二年一二月二目であることは〈証拠省略〉ならびに弁論の全趣旨に照らし明らかである。

二  そこで、原告が本件農地売渡処分の無効確認を求めるについて判断する。

原告は、本件農地は元来青山勝次郎の自作地であり、昭和二九年同人死亡後は原告が妻登茂江ら二名とともに共同耕作して現在にいたつたのであるが本件農地以外にも田畑八、八九四平方メートル(八反九畝二一歩)を所有し耕作する自作農であるから、本件農地につき、前示売渡処分の無効が確定されることにより、農地法第三六条第一項によつて行われる売渡処分について売渡の相手方となる資格を有する旨主張する。

おもうに、旧自創法第三条による買収処分および同法第一六条による売渡処分がなされた農地につき、この売渡処分の無効が確定されると、更めて農地法第三六条第一項により売渡処分が行なわれるべきことは農地法施行法第一三条に照らし明らかである。

ところで、確認の訴における原告適格(すなわち確認の利益)を基礎づける事実についてはいわゆる弁論主義の原則が適用され当事者の主張事実にもとづいて判断することとなるが、原告の主張するところによれば、本件農地につき農地法によつて行われる売渡処分において、原告が売渡の相手方となり得る地位は農地法第三六条第一項第一号によるものとは認められず、同項第三号によるものと認めるのほかはない。けだし、農地法第三六条第一項第一号にいう小作地につき現に耕作の事業を行なつている物とは、当該農地を所有権以外の権原にもとづいて耕作の事業に供する者を指称するところ、本件農地につき旧自創法第三条により買収処分がなされた以上、その所有権は国に帰属することになるのであるが(農地法施行法第二条第二項旧自創法第一二条第一項参照)、原告が本件農地につき、国との間の契約により前示のような耕作の権原を取得した形跡がないことは勿論、みぎ買収処分に定めた買収の時期すなわち昭和二二年一二月二日当時、旧自創法第一二条第二項所定の使用権限を有していたものでないことも、また原告の主張自体に照らし明らかであるから、結局原告は、国に対して無権原の耕作者となり、農地法第三六条第一項第一号の要件を満たさないことになるからである。

したがつて、原告が本件農地の売渡を受けるのは農地法第三六条第一項第三号によるわけであるが、その要件は「自作農として農業に精進する見込みがある者で農業委員会が適当と認めたもの」と規定されているだけであるから、原告としても本件農地の売渡処分の相手方となりうる可能性を有するわけである。しかし、右の売渡処分の相手方の決定は、同条同項第一号の場合とは異なり、被告の農地法の目的に即した政策的、技術的考慮にもとづく判断に委ねられており、その裁量に属するものであるから原告がその主張する農地を耕作する自作農であるからといつて、本件農地の売渡の相手方として法律上の保護に値する地位を有するものということはできない。したがつて原告には、未だ前示売渡処分の無効確認を求める法律上の利益があるものとはいえず、行政事件訴訟法第三六条所定の原告適格を欠くというほかはない。

三  つぎに、原告の被告に対する本件農地の売渡処分を求める訴の適否について判断するに、このような訴は講学上いわゆる義務づけ訴訟として、行政庁に対し一定の行政処分をなさしめることを求めるものであるが、裁判所としては三権分立の建前から原則としてかかる訴を認めることができないと解すべきである。

もつとも、行政庁の判断が一義的で裁量の余地なく、しかも裁判によつて解決するに足るほど争いが成熟しており、裁判所の事前審査によるのでなければ回復しがたい損害を被り、または被る危険が切迫しているような場合等には例外的に許容される余地もあると解されないわけではないが、本件においては、その許容される余地すら存しないことは、上来説明したところから明白である。

四  以上のとおり、原告の被告に対する本訴請求は、いずれも不適法であるから、これを却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条第九四条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 石崎政男 長久保武 武田車弘)

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